取引先から「生成AIを業務で使っていますか。使っているなら内容を教えてください」という照会が来た。秘密保持契約の更新時に、AIに関する条項が追加されていた。回答の期限は今週中。 この記事は、その1枚を書くためのものです。 書くのは5項目。社内のルールが決まっていれば1時間で終わります。決まっていない場合も、この記事の順で埋めれば形になります。先に、最もよくある初動を止めておきます。
「使っていません」と答えない
反射的にこう答えたくなります。そして、これが一番危ない。
個人アカウントでの利用は、把握していないだけで存在する
会社として契約していなくても、社員は個人のアカウントで使っています。無料版で、メールの文面を整えたり、英文を訳したり、Excelの数式を聞いたりしている。
会社として把握していないだけで、使われていないわけではありません。そして「使っていません」と回答した後にそれが発覚すると、事実と違う回答を出したことになります。契約上の問題より、信用の問題として重くなります。
社内で誰が何を使っているかの確かめ方は社員がAIを使っているかは、「使っていますか」では分からないに書きました。
相手が知りたいのは可否ではなく、管理されているか
照会の意図を取り違えないでください。
取引先は、AIの利用を禁止したいわけではありません。開発委託の契約について整理したアクシアの記事も、発注側が求めているのは「禁止」ではなく「説明」だと書いています。
つまり相手が見たいのは、使っているかどうかではなく、使い方が決まっているかどうかです。「使っています。ただし入力する情報の範囲を決めており、次のとおり運用しています」という回答の方が、「使っていません」より通ります。
管理されていない「使っていません」は、管理されている「使っています」より弱い。
回答に書く5項目
A4で1枚。それ以上は求められていません。
①使っているサービス(事業者名まで)
「ChatGPT(OpenAI, L.L.C.)」のように、サービス名と提供事業者名を書きます。アクシアの記事は、事業者名に加えて所在国まで含めることを挙げています。求められていれば書いてください。
複数を並べないでください。 3つ書けば、相手は3つ分を確認することになります。社内で使ってよいサービスを1つに絞ってあれば、ここは1行で済みます。絞り方は社員が使い始めた生成AI。先に決める3つと、後でいい6つに書きました。
②入力しない情報(帳票名で)
ここが回答の中心です。「機密情報は入力しません」では通りません。相手が知りたいのは、自社が渡した図面や仕様書が入力されないかどうかです。
だから帳票の名前で書きます。
> 入力しない情報:取引先から受領した図面・仕様書、注文書、原価表、従業員名簿、ID・パスワード
この一覧に、相手が自社に渡しているものが含まれていれば、それで回答になります。
③学習に使われない根拠(どの公式資料を見たか)
「学習には使われません」とだけ書かないでください。根拠を示します。
> 当社は法人向けプラン(◯◯)を契約しており、入力内容が学習に利用されない旨を、提供事業者の公式ドキュメント(◯年◯月確認)で確認しています。
確認した資料と、確認した時期を書く。これだけで回答の性質が変わります。条件は変わるので、年1回は確認し直して日付を更新してください。
④契約形態(法人契約か個人契約か)
法人として契約しているのか、社員の個人契約を黙認しているのか。アクシアの5項目にも入っている論点です。
個人契約のままなら、正直にそう書くしかありません。ただ、この照会が来た時点で、法人契約に切り替える理由ができたと考えてください。 次の照会までに直せば済みます。
⑤出力の確認者
AIが作った文章をそのまま社外に出していないこと、誰が確認しているかを書きます。
> AIの出力は下書きとして扱い、社外に提出する文書は担当役員が確認します。
当社もAI業務支援で必ずこの一行を入れています。相手にとっては、ここが最後の歯止めに見えます。
照会が来る前に作っておく
正直に書くと、照会が来てから2日でこの1枚を作るのは無理です。
使うサービスを決め、禁止情報を帳票名で洗い出し、公式ドキュメントを読み、確認者を決める。どれも社内の合意が要ります。期限に追われながらやると、実態と違うことを書いてしまう。
当社は、この照会を受ける側です。よくある質問に「AIへ会社の機密情報を入力しても大丈夫ですか」という項目を置き、「無断では入力しません。情報を分類し、禁止情報、利用サービス、保存、確認方法を決めます」と書いています。これは顧客向けの回答であると同時に、自社の1枚でもあります。
先に作っておけば、照会が来たときは日付を入れて送るだけで済みます。
この1枚では足りないこと
3つ、はっきり書いておきます。
契約書の解釈は、この1枚では扱えません。 秘密保持契約の「第三者への開示」に生成AIへの入力が当たるかどうかは、契約の文言と運用によって変わります。法律事務所が議論している論点で、当社を含む制作・AI支援の事業者が判断できる範囲を超えます。条項の修正が絡むなら弁護士に相談してください。
相手が求める書式が別にある場合があります。 大手は独自のチェックシートを配ってくることがあり、その場合はそちらを埋めます。この5項目は、書式が指定されていないときの雛形です。
1枚を出したら終わり、ではありません。 使うサービスを増やしたときは、その都度通知することを求められるのが通例です。アクシアの5項目にも「サービス追加時の事前通知と承諾」が入っています。増やす前に一報を入れる運用にしてください。
まとめ
今、社内で誰がどのAIを使っているかを、3人に聞いて書き出してください。回答書はそこからしか作れません。
照会が来ていない会社も、先に1枚作っておくことを勧めます。作るのに半日、更新は年1回で済みます。
この記事を書いた人
しがビズ(株式会社トリプルエッグ)
滋賀県の中小企業向けに、会社サイトの作り直しと、生成AIの業務導入を行っています。機密情報の扱いについてはよくある質問にも書いています。
出典
- 株式会社アクシア「開発委託先のAI利用を契約で決める5項目」
(発注側が委託先に求める項目、「禁止ではなく説明」という整理)