取引先から届いた図面、仕様書、名簿。これをAIに読ませれば作業が速くなる、と分かっている。ただし秘密保持契約を結んでいます。入れていいのかどうか、社内に判断できる人がいません。 この記事は、その判断の材料を自分で集める手順です。弁護士に相談するかどうかも含めて、まず自社で何を確認すればいいのかを書いています。 確認は契約書を開くだけで、条番号を覚える必要はありません。探すのは6つの言葉です。取引高の大きい3社分なら、半日かかりません。 なお、この記事は法的な判断をしません。確認する手順までを扱います。

「学習されない設定だから大丈夫」で止まってはいけない

社内でこの話をすると、ほぼ必ずこの一言が出ます。有料プランは入力内容を学習に使わない、と書いてある。だから問題ない、と。

この一言で議論が終わってしまうのが、いちばん多い止まり方です。契約書を誰も開かないまま結論が出ています。

学習に使われるかと、第三者に渡したことになるかは別

秘密保持契約が禁じているのは、たいてい「第三者への開示」です。ここでいう第三者に、自社が使うクラウドサービスの運営会社が含まれるのかどうか。これが論点です。

学習に使われないという設定は、渡したあとにどう扱われるかの話です。渡したこと自体が消えるわけではありません。2つは別の層にあります。

弁護士事務所の解説記事でも、この切り分けは共通して指摘されています。ただし多くは法務担当者に向けて書かれており、法務がいない会社が明日何をするかには触れていません。そこを以下で埋めます。

確認する相手は、AIの会社ではなく取引先

サービスの利用規約を読み込んでも、答えは出ません。規約に書いてあるのは、そのサービスがデータをどう扱うかだけです。

自社が何をしてよいかを決めているのは、取引先との契約書のほうです。 見る順番を間違えると、何時間読んでも結論に届きません。

契約書は、条番号ではなく言葉で探す

ここがこの記事の中心です。

「第◯条を確認しましょう」と書いてある記事は実務になりません。条番号は会社ごとに違います。 取引先が5社あれば、5通りの並びがあります。

代わりに、言葉で探します。契約書のPDFやWordを開いて、検索(⌘F または Ctrl+F)で次の6語を順に入れてください。

「第三者」「開示」——渡したことになるかを決める言葉

最初に見るのはこの2語です。

「第三者に開示してはならない」という条文の周辺に、たいてい例外が書かれています。「ただし、本目的の遂行に必要な範囲で、秘密保持義務を負う自社の役員および従業員に対しては」という形です。

ここを読んで、役員と従業員しか書かれていないのか、それとも委託先や再委託先まで含まれているのかを確認します。書いてある範囲が、そのまま自社が動ける範囲になります。

「複製」「委託」——外部サービスに置く行為に関わる言葉

次の2語です。

「複製を禁止する」という条文があると、外部のサービスに貼り付ける行為の扱いが変わってきます。「事前の書面による承諾なく第三者に委託してはならない」も同じです。

この2語は「第三者」「開示」より離れた場所にあることが多く、読み飛ばされやすい箇所です。 検索で拾ってください。

「返還」「目的外」——使い終わった後に関わる言葉

最後の2語です。

「契約終了時に返還または破棄する」と書いてある場合、外部サービスの履歴に残ったデータをどうするかが問題になります。サービス側に削除の手段があるか、確認する必要が出てきます。

「目的外使用の禁止」は、業務の効率化に使うことが本来の目的に入るのかという論点につながります。

見つけた内容を一覧表にする

6語を検索したら、表に書き出します。

取引先第三者・開示の範囲複製・委託の制限返還・目的外の定め判断
A社役員と従業員のみ事前承諾が必要終了時に破棄確認が必要
B社委託先を含む記載なし記載なし条件つきで可

「判断」の欄に法的な結論を書く必要はありません。「そのまま使える」「取引先に確認が必要」「弁護士に相談」の3つに仕分けるだけで、次の動き方が決まります。

この一覧表は、あとで社内ルールを作るときの土台になります。ルールの作り方は生成AIの社内ルールの記事に書いています。

契約書が手元に無い、結んでいない場合

中小企業では珍しくありません。長く続いている取引ほど、紙が見つからないことがあります。

注文書・見積書の裏面と基本取引契約書を探す

単独の秘密保持契約が無くても、条項がどこかに紛れていることがあります。探す場所は3つです。

  1. 基本取引契約書。取引開始時に一度だけ結んだもの。秘密保持の条項が中に入っていることが多い
  2. 注文書や発注書の裏面。印刷された約款に含まれている場合がある
  3. 取引先のポータルサイトの利用規約。大手の発注元だと、システム利用の同意時に秘密保持を含めている

この3つを見て何も無ければ、明文の定めは無い、ということになります。

紙が無いことは「自由」を意味しない

ここで判断を止めてください。明文が無いことと、何をしてもよいことは違います。

図面や名簿を預かる取引には、業界の慣行と、口頭でのやり取りの積み重ねがあります。紙が無い相手ほど、後から問題になったときに拠り所がありません。

明文が無い場合こそ、次の項の「聞く」に進むのが早いです。

取引先に確認するときの聞き方

読者が実際に詰まるのはここです。聞き方で結果が変わります。

「AIに入れていいですか」と聞くと断られる

この聞き方をすると、相手の担当者は判断できません。判断できない依頼は、上に上げるか、断るかのどちらかになります。手間がかからないのは断るほうです。

内容が良くても、相手に判断材料が無ければ通りません。

目的・範囲・保存先を添えて聞く

次の4点を先に書いて送ります。

伝える項目例
目的見積回答の時間を短縮するため
対象御社から受領した図面のうち、寸法表の部分
使うもの◯◯社の法人向けプラン(入力内容を学習に利用しない設定)
保存処理後に履歴から削除。社外への再提供は行わない

ここまで書いてあれば、相手の担当者はそのまま社内で回せます。判断する材料を、こちらが揃えて渡すということです。

断られることもあります。その場合は対象を狭めて再度聞きます。図面全体が駄目でも、寸法だけを転記したテキストなら通る、ということはあります。

確認が終わるまで、入れてよい情報を決めておく

確認には時間がかかります。その間、現場を止めるのは現実的ではありません。止めると、誰かが黙って使い始めます。

実際、社内ルールを作る前にすでに現場が図面を入れていた、という順序はよくあります。取引先の名簿を要約させるために、名簿をそのまま貼り付けていた例もあります。

だから、確認が終わるまでの暫定の線を引きます。

入れてよいもの(例)

  • 自社だけで作った文書。社内会議の議事録、自社の手順書、自社が書いた原稿
  • 公開されている情報。自社サイトに載せている内容、公的機関が公開している資料

入れないもの(例)

  • 取引先から受け取ったファイル。図面、仕様書、名簿、価格表
  • 個人が特定できる情報
  • 自社の未公開の価格、原価、取引条件

この線の引き方で大事なのは、判断を社員一人に持たせないことです。「これは入れていいだろうか」と現場に考えさせる形にすると、忙しい日に例外が生まれます。会社が一覧を作り、そこに無いものは入れない、とだけ決めます。

契約の確認を進めるのと並行して、この一覧を育てていきます。しがビズのAI導入支援では、この手順ルールの作成までを含めて進めています。

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この記事で判断できないこと

この記事は、契約書のどこを見るかまでを扱いました。次のことは判断できません。

  • 条項が有効かどうか。 書いてある内容が法的に通るかは、契約書全体と取引の経緯で変わります
  • 外部サービスへの入力が「第三者への開示」に当たるかどうか。 争いのある論点で、契約の文言によって変わります
  • 違反した場合にどうなるか

一覧表を作った結果、判断できない取引先が出てきたら、その表を持って弁護士に相談してください。表が無い状態で相談するより、はるかに短時間で済みます。

なお、AIに関する契約で確認すべき項目は、経済産業省が令和7年2月に公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」に整理されています。利用型と開発型に分けて条項が並んでいるので、自社の一覧表と突き合わせると抜けが見つかります。

この確認をしていると、取引先から情報セキュリティのチェックシートが届くこともあります。回答を毎回書き直さずに済ませる方法は取引先のセキュリティチェックシートは、サイトに1ページ作ると半分が終わるに書きました。

まとめ

外部サービスの設定を調べる前に、取引先との契約書を開いてください。答えはそちらにあります。

今日やることは1つだけです。取引高の大きい3社分の契約書を開いて、「第三者」「開示」「複製」「委託」「返還」「目的外」の6語を検索してください。 全社分は後で構いません。3社で判断の型ができます。

この記事を書いた人

しがビズ(株式会社トリプルエッグ)

滋賀県の中小企業向けに、会社サイトの作り直しと、生成AIの業務導入を行っています。

運営会社と記事の確認方針 / 公開制作事例と支援の具体例

出典