制作会社から「加工事例と設備を載せると引き合いが増えます」と言われた。ところが現場の責任者が「うちのやり方を出すな」と反対して、制作が止まっている。 どちらも正しいことを言っています。 噛み合わないのは、「技術を出すか出さないか」という一つの問いとして扱っているからです。中身は4種類あって、扱いが全部違います。 この記事では、設備・加工実績・加工条件・図面の4つを横並びで裁きます。出す前に社内で踏む手順も書きます。所要1時間、必要なのは現場責任者と営業の2人です。
「技術を出せば引き合いが増える」は、半分しか言っていない
技術情報を出すと引き合いが増える。これは事実です。Web制作側の記事はここを書きます。
書かれていないのは、出した後に起きることの方です。
発注側は、設備名ではなく加工法と材料で探している
出す側は設備を並べたがります。保有している機械は社内で誇れる資産なので、自然とそうなる。
発注側の見方は違います。MONOistが開発設計者4人に取材した記事では、発注先を探すときに使う言葉は材料名・加工法・部品名で、設備名や地域名で検索することは少ないと答えています。そしてサイトで最初に見るのは実績でした。重視されないものとして挙がったのが、ISO認証・企業規模・所在地です。
4人の取材なので、これを割合として扱うことはできません。ただ、「設備を並べれば見つけてもらえる」という前提は、少なくとも無条件には成り立たない。
発注側が何を読むかという話はBtoBの会社サイトに書くのは、強みではなく対応範囲の数字にまとめました。
出した後で消しても、戻らないものがある
ここが現場責任者の心配している部分です。そして、心配は当たっています。
不正競争防止法で営業秘密として守られるには、3つの要件を全部満たす必要があります。秘密管理性、有用性、そして非公知性です。経済産業省の営業秘密管理指針は、非公知性を「一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないこと」としています。
サイトに書けば、そこが崩れます。 ページを消しても、一度公開した事実は消えません。
特許も同じ方向に動きます。出願前に自分で公開すると新規性に影響します。救済する規定はありますが、期限があり、手続きが要る。先に出してから考える、という順序にはできません。
もう一つ、特許を取らずにノウハウとして持ち続ける選択もあります。この場合に効くのが先使用権です。特許庁は立証のために公証サービスやタイムスタンプを使うことを勧めていて、事例集も公開しています。中小企業の例として、製品を箱に入れて確定日付を取る方法が紹介されています。
出さない代わりに、出していないことを証明できる形で残す。 これは「出す/出さない」とは別の軸です。
4つに分けて裁く。全部は同じ扱いにならない
ここからが本題です。載せる候補を4つに分けてください。
設備一覧 ── 出す
機械名、メーカー、台数、加工できる最大寸法。これは出します。
理由は単純で、設備は隠せないからです。 カタログに型番が載っていて、同業者は展示会で見ている。隠して守れるものではありません。
むしろ書かない方が損をします。発注側が「この大きさの物が入るか」を判断できないと、問い合わせの前に候補から外れます。最大加工寸法と対応重量は、数字で書いてください。
加工実績の寸法・公差・材質 ── 出す。ただし形が分かる写真は外す
迷うのはここだけです。ここに時間を使ってください。
出すべきは数字です。材質、板厚、外形寸法、達成した公差、ロット数、納期。これらは会社の対応範囲を示すもので、出さないと土俵に上がれません。
問題になるのは写真の方です。当社が見た例では、加工事例の写真に客先の部品がそのまま写っていました。 社名は伏せてあったのですが、形状で何の部品か分かる。発注元が見れば自社の品だと分かります。
社名を伏せれば済む、という話ではありません。 形が残っていれば特定されます。
対処は2つ。自社で作ったテストピースを撮り直すか、客先に許可を取るか。許可を取る手順は取引先名を出せない会社の、実績ページの書き方に書きました。工場の写真を自分で撮る場合の注意は工場の写真は自分で撮れる。撮る場所と、避ける構図にまとめてあります。
加工条件・段取り・治具 ── 出さない
切削条件、送り速度、温度、工具の選定、治具の構造、段取りの順序。これは出しません。
理由は非公知性です。前の節で書いたとおり、公開した時点で営業秘密としての保護から外れます。そして加工条件は、設備と違って隠せる。隠せるものを自分から出す必要がありません。
現場責任者が反対しているのは、だいたいこの層です。反対は正しいので、営業側が譲ってください。
ただし、条件を出さずに能力は示せます。「SUS304の板厚3mmで、公差±0.05mmを安定して出しています」は結果の数字であって、どうやって出しているかは書いていません。発注側が知りたいのは前者です。
図面そのもの ── 出さない。理由は著作権より先に契約
図面をサイトに載せる相談は、意外とあります。「技術力が伝わるから」という理由です。
出せません。 受託加工で手元にある図面は、ほぼ全部が客先の図面です。
この話を著作権で説明している記事がありますが、実務で最初に効くのは取引基本契約の秘密保持条項です。製造業の取引基本契約には、相手から受け取った図面・仕様書を目的外に使わない、第三者に開示しない、という条項がだいたい入っています。著作物に当たるかどうかを議論する前に、契約で止まります。
自社設計の製品があるなら、その図面は自社のものです。それでも、出す前に特許・意匠の出願をどうするかを先に決めてください。順序を逆にすると戻せません。
出さないと決めた項目の、代わりに書くもの
「出さない」で終わると、技術ページが空になります。制作が止まるのはここです。
出さない情報の代わりに書けるものが3つあります。
- 達成している結果の数字。 公差、歩留まり、最短納期、対応ロットの下限と上限。
どうやっているかは書かず、何ができるかだけを書く
- 検査と保証の体制。 測定機の種類、全数検査か抜き取りか、検査成績書を出せるか。
これは取引を始める側が必ず確認する項目で、隠す理由がありません
- 受けられない仕事の条件。 対応できない材質、入らない寸法、受けない最小ロット。
断る条件を書くと、合わない問い合わせが減ります
3番目を嫌がる会社が多いのですが、合わない引き合いに見積を出す時間の方が高くつきます。
公開する前に、社内で踏む3つの手順
- 営業が書いた原稿を、現場責任者に紙で渡す。 画面で見せない。印刷して渡す
- 4つの分類を欄外に書いておく。 設備/実績の数字/加工条件/図面。
責任者が「これは条件に当たる」と指摘しやすくなります
- 写真は別に並べて、1枚ずつ「これは何の部品か」を確認する。
文章と一緒に見ると写真は流されます
当社が会社サイトの再生に入るときは、技術ページの原稿を必ずこの形で現場に戻します。営業が書いた原稿がそのまま通ることは、ほとんどありません。 それでいいと考えています。止まるのは公開前なので、やり直しが効きます。
所要時間は1時間です。4項目に分けてあれば、議論が「出す/出さない」の水掛け論になりません。
この記事で判断できないこと
その情報が営業秘密に当たるかどうか、特許が取れるかどうかは、この記事では判断できません。 弁理士と弁護士の領域です。
判断が要りそうなのは、自社開発した製品や工法を公開するときです。この場合は、サイトを作る前に出願の方針を決めてください。順序が逆になると取り返しがつきません。 滋賀県内なら、滋賀県産業支援プラザの知財関連の相談窓口や、日本弁理士会の無料相談が使えます。
もう一つ、取引基本契約の条文は会社ごとに違います。 「だいたい秘密保持条項が入っている」と書きましたが、自社の契約書を読んでください。製本されて金庫に入ったまま、誰も読んでいない契約書が実際にあります。
まとめ
今日やることは1つです。載せる候補を、設備・実績の数字・加工条件・図面の4つに仕分けてください。 紙に4列書いて、候補を放り込むだけです。
仕分けが終われば、議論するのは2列目だけになります。あとの3列は答えが決まっています。
相談のときは、会社名、サイトのURL、迷っている項目を教えてください。
この記事を書いた人
しがビズ(株式会社トリプルエッグ)
滋賀県の中小企業向けに、会社サイトの作り直しと、生成AIの業務導入を行っています。
出典
- 経済産業省「営業秘密管理指針」(最終改訂:令和7年3月31日)
(営業秘密の3要件、非公知性の定義)
- 特許庁「先使用権制度について」
(先使用権の立証に公証サービス・タイムスタンプの利用を推奨、事例集の公表)
