商談が進んだところで、相手の購買担当から「一度、工場を見せていただけますか」と言われた。断る理由はありません。ただ、何を準備すればいいのかを知っている人が社内にいない。前に受け入れたのは数年前で、そのときの記録も残っていない。 検索すると、工場見学の動画を作る会社の記事と、見学会で見込み客を集める方法の記事が出てきます。どちらも、いま起きていることとは別の話です。 取引先が契約の前に来るのは、集客のための見学会ではありません。農林水産省が出している手順書は、これを監査と呼んでいます。呼び名が変われば、準備するものも変わります。 この記事では、サイトに書いておく6項目と、当日までに揃える書類を挙げます。書類の中身は国の手順書に並んでいるので、推測で用意する必要はありません。

「一度見せてください」は、見学ではなく取引前の確認のことがある

国の手順書は、これを「監査」と呼んでいる

農林水産省のフード・コミュニケーション・プロジェクトが公開している「FCP共通工場監査項目 監査手順書」は、1ページ目でこう定義しています。

> お取引先が会社の状況・製造の状況を確認に来られる場合があります。それが監査と呼ばれています。

身構える言葉ですが、中身は取引先による現地確認です。同じ手順書は、自社で行うセルフチェックを一者監査、取引先が行うものを二者監査と呼び分けています。商談中にかかってくる「見せてください」は、この二者監査にあたります。

この文書は食品分野のプロジェクトが作ったものです。そのまま他の業種に当てはまるとは書けません。ただし手順書は、使用を前提としている「FCP共通工場監査項目」について、工場監査で求められる確認項目を整理した、業種や業態を問わず使えるチェックのためのツールだと説明しています。確認項目の並び方は、食品以外の製造業が自社の準備を点検するときにも読めます。

集客の見学会と、取引前の確認は準備するものが違う

学生や地域の方を招く見学会は、こちらが主催する催しです。日程も人数も見せる範囲も、自社で決められます。

取引前の確認は逆です。日程は相手の審査スケジュールで決まり、見る場所も相手が決めます。 手順書によれば、現場確認の範囲には工場の外周、全ての製造工程、原料倉庫から不適合品の保管庫までの各倉庫、更衣室とトイレ、食堂、検査室、清掃用具置場、ゴミや廃棄物の置場、資材置場が含まれます。

製造ラインだけを見せて終わる、という想定でいると当日に困ります。トイレとゴミ置場が確認の対象に入っているからです。

もうひとつ違うのは、出席者です。手順書は当日の最初の打ち合わせについて、品質管理部門の責任者と現場の責任者だけでなく、できる限り経営者層にも参加してもらう、と書いています。社長の予定を空ける必要がある、ということです。 日程の回答をする前に、ここを確認してください。

サイトに1ページ作ると、日程調整の往復が減る

ここからが、今日できる作業です。

当社が会社サイトの再生に入るとき、いまあるページを見てどの項目が抜けているかを確認する工程があります。見学について書いてあるサイトで多いのは、「工場見学受付中」の1行だけ、という形です。申込先も、所要時間も、受け入れられる曜日も書かれていない。これだと、相手は電話をかけるしかありません。

書いていないサイトはもっと止まります。見学の案内が無かったために、問い合わせフォームの自由記述欄に「工場を拝見できますか」と書かれていた例がありました。 フォームの宛先は総務で、営業に話が回るまでに数日かかっていました。商談中の相手を数日待たせています。

受け入れの可否と、受けられない時期

最初に、受け入れているかどうかを1行で書きます。

そのうえで、受けられない時期を書いてください。棚卸しの週、夏季と年末年始の停止期間、特定の設備が稼働していない曜日。先に書いておくと、相手はその週を外して打診してきます。 断る連絡をしなくて済むぶん、角も立ちません。

申込先・所要時間・人数の上限

申込先は、部署名と連絡先を書きます。フォーム経由にするなら、問い合わせの種類の選択肢に「工場見学・現地確認」を足してください。選択肢が1つ増えるだけで、社内の振り分けが変わります。

所要時間は、こちらから提示します。製造工程の説明に何分、現場の確認に何分、質疑に何分。相手は半日空けるのか2時間で済むのかを知りたいので、合計の目安があれば日程を組めます。

人数の上限も書きます。通路の幅と安全通路の確保で決まる数字なので、現場に聞けば出ます。上限を書かないと、こちらが想定していない人数で来ることがあります。

撮影の可否と、秘密保持の扱い

ここは必ず書いてください。

監査手順書は、現場確認の際に実施状況を記録として写真撮影すると書いたうえで、撮影に関しては事前に確認をしておくことが必要だ、と明記しています。相手は写真を撮る前提で来ます。 当日に「撮らないでください」と言うより、サイトに書いておくほうが早い。

書き方は、全面禁止にしなくて構いません。撮影できる区域と、できない区域を分けて書く。秘密保持契約を結んでから受け入れる運用なら、その旨も先に書いておきます。手続きが1つあると分かれば、相手はその時間を日程に見込みます。

預かった図面やデータの扱いについては取引先から預かった情報をAIに入れる前に、契約書で確かめる6つの言葉に別途まとめました。

当日までに出す書類は、国の手順書に並んでいる

何を用意するのかが分からない、という不安は、一覧を見れば消えます。

監査手順書は、情報収集の内容も含めて3週間前には監査をする側と受ける側で監査の内容を相互確認することが望ましい、としています。3週間という数字が出ているので、日程を受けた時点で逆算できます。

受け入れ側が準備する書類

手順書が挙げているのは次のものです。

  • 工場のレイアウト
  • 組織図
  • 会社概要
  • 記録の一覧表(水質検査、貯水清掃記録など)
  • マニュアル・手順書
  • 取引の対象となる商品の情報(規格内容、製造工程表、原材料リスト、生産量、品質管理体制など)
  • 対象商品に適用される法令
  • 情報の取扱ルール
  • マネジメントの方法を示す文書(認証を取得していれば、その認証証明書)
  • 他社からの監査で提出できる報告書があれば、任意で提出

この一覧を見て気づくことがあります。組織図と会社概要は、すでにサイトに載っているはずのものです。 載っていれば、そこを案内するだけで1項目が終わります。載っていなければ、この機会に作ることになります。

対象商品の情報も同じです。対応できる寸法や工程を数字で整理してあれば、そのまま出せます。整理の仕方はBtoBの会社サイトに書くのは、強みではなく対応範囲の数字に書きました。

「開示に支障のない範囲で」と書いてある

一覧を見て身構えた方へ、手順書の但し書きを引きます。

> 但し開示に対して支障のない範囲で結構です。

全部出す義務がある、とは書かれていません。 提出内容については事前に相互確認することが必要だ、とも書いてあります。つまり、出せないものがあるなら事前の打ち合わせで言う、というのが想定されている進め方です。

さらに手順書には、監査の前の工程として「監査受入側が監査者へ要求する事項への対応」という項目が置かれています。受け入れる側からも条件を出してよい、という構造になっています。 撮影の制限や立入禁止区域の指定は、ここで伝えます。

では、どこまで出さないと決めるのか。これは当日に判断できません。当社は技術ページの原稿を公開前に現場責任者へ紙で戻して確認していますが、見学の受け入れでも同じ工程が要ります。図面や加工条件のように、出した後で戻せないものがあるからです。 線の引き方は加工技術をサイトにどこまで書くかにまとめました。

工場の写真をサイトに載せるかどうかも、同じ日に決めてしまうと早い。撮り方は工場の写真は自分で撮るに書いています。

建設・設備工事は、自社だけで受け入れを決められない

製造業と条件が違うのが、この2業種です。

工場は自社の建物ですが、工事現場は発注者のものです。 自社の判断だけで人を入れることはできません。

建設産業人材確保・育成推進協議会が平成31年3月に改訂した「現場見学会マニュアル」は、見学依頼が現場にあった場合の手順として、現場見学会の開催を検討し、発注者の意向を確認のうえで依頼者に回答する、という順番を示しています。現場側から招待する場合も、先に発注者の意向を確認してから相手に連絡する流れです。

このマニュアルは、小中高校生や一般の方を対象にした見学会のために作られたものです。取引先の現地確認の手順書ではありません。ただ、現場を見せるかどうかを自社だけで決められない、という構造は同じです。

同じマニュアルは、公共事業の発注者について、現場見学依頼に対応する担当部署を決めているところが多い、と書いています。公共工事を受けている会社なら、発注者側の窓口がどこかを先に調べておくと、回答が早くなります。

サイトに書くなら、1行足してください。「工事現場の見学は、発注者の承諾が必要なため、回答までにお時間をいただきます」。待たされる理由が分かっていれば、相手は待ちます。 理由が分からないまま返事が来ないと、相手は別の会社に当たります。

断る場合についても、マニュアルは触れています。工期が厳しい場合や、現場が見学者にとって著しく危険である場合など、開催が困難なこともあると認めたうえで、早い段階で理由を示してはっきり伝えること、そして他の現場を紹介するなどの対応が望ましい、としています。断ること自体は想定されています。 問題は、返事をしないまま時間が過ぎることのほうです。

受け入れても、取引につながるとは限らない

正直に書きます。

監査は、相手が発注先を決めるための作業です。候補に入れるためだけでなく、候補から外すためにも行われます。 受け入れたから取引になる、という関係ではありません。

手順書は、監査の後の流れとして、監査をする側が監査報告書を作成し、それをもとに「改善事項提案書」を受け入れ側に渡す、と書いています。受け入れ側は、それを受けて改善を行い、報告する。相手がもう一度現場に入ることもあります。1回で終わらないことがある、ということです。

受け入れにかかる手間も、見積もっておいてください。書類を10種類近く揃え、社長を含む責任者の予定を半日押さえ、現場を片付ける。小さくない負担です。

そして、サイトに受け入れ条件を書いたからといって、見学の申し込みが増えるとは限りません。ここで変わるのは件数ではなく、1件あたりのやり取りの回数です。 日程と条件が先に伝わっているぶん、往復が減ります。当社が数えられるのはそこまでで、それが受注に結びついたかどうかは分けて見る必要があります。測り方はサイトを直した効果は、いつ、どの数字で判断するのかに書きました。

なお、求職者が応募前に見たいと言ってくる見学は、これとは別物です。見せる場所も説明する内容も違うので、ページを分けてください。採用側の書き方は社員10人の会社の採用ページ。大手の構成から削って作るにあります。

まとめ

今日やることは1つです。前回いつ、どこの会社が来て、何を見せたかを思い出して書き出してください。

思い出せる範囲で構いません。所要時間、案内した人、見せなかった場所。この3つが書き出せれば、サイトに載せる6項目のうち4つは埋まります。思い出せないなら、それ自体が、記録を残していないという答えです。

受け入れの条件を先に公開しておくと、次の打診は電話ではなくメールで、日程の候補付きで来ます。

6項目をどのページに載せるかは、会社サイトの構成次第です。当社が会社サイトを作り直すときのページの分担は、ホームページ制作・リニューアルにまとめています。

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この記事を書いた人

しがビズ(株式会社トリプルエッグ)

滋賀県の中小企業向けに、会社サイトの作り直しと、生成AIの業務導入を行っています。対応範囲と料金は料金ページにすべて公開しています。

運営会社と記事の確認方針 / 公開制作事例と支援の具体例

出典

(監査の定義、一者監査と二者監査の区別、監査前に受け入れ側が準備する文書、開示範囲の但し書き、撮影の事前確認、現場確認の範囲)

(見学依頼を受けた場合に発注者の意向を確認する手順、公共事業の発注者の担当部署、開催が困難な場合の対応)